【エルトラックが教える】練習計画の立て方

【エルトラックが教える】練習計画の立て方

ERUTLUC(エルトラック)

やるべきこと、やりたいことがあまりに多くあります。
 「時間が足りない」はコーチの口癖です。(少なくともそう「思った」ことはあるはずです。)  
コーチは頭に渦巻く多くのアイデアを整理し、選手が混乱しないように伝えなければなりません。
選手たちが目的を理解しながら意欲的に効率よく学べるように準備をする必要があります。
練習計画の作成と活用がチームと選手の成長を助けてくれます。  

 

練習計画を作るといっても様々な切り口があります。
またチームによって活動目的や形態も様々です。
ここでは計画作成について一つの考え方を紹介します。

練習計画概観

■計画とは何か 
何かを行うため、または目標などを達成するために、その方法・手順などを考えて決定すること。
 Plan : to think about and decide on a method for doing or achieving something. 
ウェブサイト「Cambridge Dictionary」より  

 

■計画の効果 
・実行すべき方法と手順を明らかにすることで実行の精度が上がる。 
・方法と手順が適切であるか、または適切であったかを実行前後に評価できる。 
・方法と手順を言語化・視覚化して共有することにより関係者の意思統一ができる。 

 

まだあるかもしれません。皆さんで見つけてみてください。 

 

■練習計画の構成要素 
練習計画では以下のことをあらかじめ考えて決定します。
①どんなバスケットボールを目指すか。(バスケットボールスタイル) 
②何を練習するか(テーマ)
③いつ、どのくらい練習するか(時間配分)
④どのように練習するか(コーチング)

スタイル(目的地)を決める

「何を練習するか=選手に何を伝えるか」
コーチがこれを明確にして指導に臨むことはもちろん重要です。
しかしそれを決定する前にコーチは次の問いに答える必要があります。

 

「このチームはどんなバスケットボールを目指すのか」

 

何故ならどんなバスケットボールを目指すかによって何を・どれくらい・どのように練習するかが違ってくるからです
この目指すバスケットボールを「バスケットボールスタイル」と呼ぶことにします。

 

ちなみにスタイルとは銘打っていませんが、女子日本代表は目指すバスケットボールをこのように表現しています。

 

「原則とワクワクを両輪として、世界一のアジリティで先手をとり続けるバスケットボール」
「5人が原則を生かして瞬時にシンクロしてプレーできるようなバスケットボール」

 

スタイルには「こういうバスケットがしたい」というコーチの個人的価値観やアイデアが反映されます。
しかし単にコーチの理想を選手へ押しつけるものではありません。
スタイルはチームの目的や理念に沿ったものであるべきですし、所属選手の特徴など様々なことが考慮されます。
下記項目のように理想と現実を考慮しながらチームのスタイルを言葉にしてみましょう。

 

・チームの目的(理念・存在理由)
・コーチの持つ個人的な価値観やアイデア
・選手のアイデア
・大会での目標
・在籍選手の能力と特徴
・様々な制約条件(練習場所、練習回数、スタッフの人数など)

 

スタイルはチームの「なりたい姿」を言葉にしたもので、選手たち自身が心からこうなりたいと願い、実現を目指してワクワクしながら取り組むものです。
表現方法に決まりはありません。
ちょっと形式は違いますが、2008年の男子アメリカ代表は自分達はどんなチームでありたいかということを「スタンダード」という形で明確にしました。

 

チームのスタンダードを確立するということ
「ゴールドスタンダード・ラボ」より

 

スタイルはそのシーズンのプレーにおける目的地とも言えます。
そして目指すスタイルの決定が、何をどれくらい練習するか、または何を練習しないかの選択に影響を与えます。

何を練習するかを決める

目指すべき場所が決まりました。次は道のりを決めましょう。
スタイルを実現をするために具体的にどのようなプレーをするかということです。
これを「プレー原則」として言語化します。

 

プレー原則は「いつ」「何を目的に」「どのようなプレーをするのか」を基本構成とします。
まず「いつ」の部分については、局面または段階という二つの視点で整理してみます。

 

■局面の視点
バスケットボールの試合を4つの局面に分けて整理します。
①ボールを保持している局面(ハーフコートオフェンス)
②ボール所有権を失った局面(トランジションディフェンス)
③相手がボール保持している局面(ハーフコートディフェンス)
④ボールを所有権を得た局面(トランジションオフェンス)

 

さらに上記それぞれの局面を優位性という切り口で分けます。
A 自チームに優位性がある状況 
B 相手チームに優位性がある状況

 

これらを組み合わせると全部で八つの局面に分けられます。
①のAとB
②のAとB
③のAとB
④のAとB

 

■段階の視点
・オフェンスの四段階
①ボールを所有権を得る
②ボールを得点可能な場所まで運ぶ
③チャンスを作る
④シュートを打つ

 

・ディフェンスの四段階
①相手がボール所有権を得る
②ゴールを守りながら、ディフェンスの準備を完了させる
③相手のプレーに制限をかける
④相手のボール保持が終わる

 

こちらも自チーム優位の場合と、相手チーム優位の場合とで原則を決めることができます。

プレー原則の例 「ハーフコートオフェンス」

前述の通り、どのようなスタイルを目指すかによりプレー原則も変わります。
プレー原則はそのチーム独自のものとなります。
表現方法にも決まりはありませんがチームで共有するものであるため、簡潔かつ明確にしておく必要があります。

 

また「チームとしての原則」→「それを遂行するための個人またはグループとしての原則」→「状況別の選択肢の提示」
というように全体から部分へという視点で組み立てると整理しやすくなります。
ここでは局面の視点を使って、ハーフコートオフェンスにおけるプレー原則の一例を挙げます。
(優位性についての状況設定は省略しています。)

 

■目的
①チャンスを作り得点する
チャンスとはレシーブした時に次の状況になっていること
・ゴールラインが空いている
・ゴールラインは空いていないがディフェンスが離れている
・ペイントエリアで1対1となる

 

■ チームの原則
①味方同士は適切な距離に位置する
2メンサイド、3メンサイドの5アウトを維持する

 

②ボールを効果的に動かす
1 ディフェンスから遠いところへ動かす
2 ボールサイドを変える
3 インサイドとアウトサイドで動かす

 

③オフボールマンは効果的に動く
1 ディフェンスに移動を強いて優位性を作る
2 パス後は目的のために動く
3 ドライブに合わせて動く
4 ヘルプサイドでは味方と位置交換する

 

■個人とグループの原則
(シュート)
①チャンスはチャレンジする

 

②優先順位と判断基準に従い意図を持って打つ
・場所の優先順位
ペイントエリア
3ポイントエリア
ミドルエリア

 

・ディフェンスとの関係
①ディフェンスから遠い状況でのシュート
②ディフェンスから近い状況でのシュート


(ドリブル)
①目的を持って使用し、目的を達成させる
1 マークマンに対してゴールラインを作る
2 ペイント内へ移動する
3 ヘルプディフェンスを引きつける
4 プレーのタイミングを図る
5 味方との距離を調節する
6 インサイドへのパスのために位置調整する

 

②ドリブル中の状況の変化に対応する


(パス)
①目的を持って使用し、目的を達成させる
1 味方をチャンスにする
2 ディフェンスの移動を強いる
3 危険を回避する

 

②レシーバーとタイミングを合わせる
最適な時期にパスを出す


(レシーブ)
①目的を持ってレシーブする
1 チャレンジ
2 次のチャンスのために中継する
3 ボールを安全な位置へ移動させる

 

②目的に応じて場所を選択、調整する
1 その場でレシーブ
2 移動してレシーブ

 

③マークマンの状況(位置 姿勢 狙い)を認知する

 

④ボールマンとのタイミングを合わせる
最適な時期にプレーを開始する
ボールマンの視野から外れている場合は声で呼ぶ


(サポート)
サポートとは以下の目的を達成するためにオフボールマンが行うプレーの総称とする
・ボールマンのチャンスまたはチャレンジを生み出す
・ボールマンのチャレンジをより効果的にする
・ボールマンの危機を回避する

 

①目的を持ってサポートする
1 チャレンジを促すためにスペースを作る

 

2 チャレンジをより効果的にする
ドライブに対して位置的優位性を作るように動き、同時に自分もチャンスとなるようパスの出口を作る

 

3 局面を変える
危険ではないがボールマンがチャンスでない時は、次の局面を作るためにレシーバーとなる

 

4 危険回避
ボールを奪われそうな緊急事態では積極的にボールを受ける動きをする
必要であれば手渡しを受けるために近づく


以上がプレー原則の一例です。
これはかなり抽象的に作りましたが、もっと具体的に、
・パスした後はどこへ向かうか
・ドライブの際は誰がどのように合わせるか
などについて指定する表現があっても良いと思います。

いつ、どれくらい練習するかを決める

さて既にお気づきかもしれませんが、このプレー原則はそのまま「何を練習するか」の答え、つまり練習テーマとなっています。

 

例に挙げたハーフコートオフェンスの場合、チームの原則が3個、個人とグループの原則が12個、
詳細プレーを含むと20個ほどのテーマとなります。
計画作成ではこれらを各練習日に当てはめていきます。

 

■年間計画
重要な大会、その他の主な試合はすでに日程が決まっていると思います。
年間計画における課題は、以下のようになります。
・各大会における結果目標の決定(優勝・ベスト4など)
・重要な大会から逆算した、月ごとのプレー原則の達成度目標
(何月の時点でどの程度の原則遂行できているべきかの見通し)

 

■月間計画
月ごとの目標達成を目指して時間配分を決定します。
もちろんチームによって各テーマの優先順位や1つのテーマにかける時間は変わります。
これらのことはコーチがチームの状況を見て決定します。
・四局面の時間配分決定
・各テーマの時間配分決定

 

■週間計画
・各テーマの時間配分決定
・各練習日でのテーマと時間配分決定、ドリル作成も含めた指導計画の作成

 

月間計画以降は、常に前月、前週、前日練習の評価からの修正が行われます。

 

■試合から課題が見つかった場合
これも試合後の練習計画に組み込んでいきます。
この時点でも当初の時間配分からの修正が行われることと思います。

 

実は皆さんが体系化したプレー原則は試合課題の分析にも役に立ちます。
例えばハーフコートオフェンスの局面において、チャンスを作り、得点することができなかったという課題があった場合、
チーム原則→個人とグループの原則→技術
という視点で分析し、次の練習で何をテーマとすべきかを探っていきます。

 

(分析例)
・ハーフコートオフェンスでチャンスが作れず、確率の低いシュートで終わっている(現象・目的の不達成)
・ボールを効果的に動かすことができていない(チームの原則からの視点)
・パスとレシーブに目的がなく効果的なボール移動になっていない(個人とグループからの視点)
・それらの結果としてディフェンスとのずれを作れず無理なシュートを打たざるを得なくなっている(現象の再表現)

 

そうすると練習テーマとしては
・効果的なボール移動についての確認
・パスとレシーブの考え方の共有と技術の向上
などとなります。

まとめ

非常に駆け足となりましたが、以上が練習計画についての提案になります。
スタイルとプレー原則を基にした計画の長所は、常に目的地を見据えていること、全体から部分へということを意識していることです。
そのため日々の練習が全体のどの部分なのかを確認しながら行うことができます。

 

選手たちは虫の名前を覚えるだけでなく、全体として何が描かれているかを理解する必要があります。
細部にこだわることはもちろん重要ですが、コーチも選手も細部しか見ていないということは避けなければなりません。

 

年間の見通しを立てることは難しいですが、はじめに大まかにでも全体像を把握しておくことは大切です。
年間の見通しは月間計画の成果をあげ、月間計画の充実は週間計画、そして当日の練習をより効果的なものにするでしょう。
毎回の練習で振り返りをしながら、選手の成長の様子を見ながら、成果の高い練習を作っていきましょう。

 

最後までお読みいだだきありがとうございました。

ERUTLUC(エルトラック)

株式会社ERUTLUC
「バスケットボールの家庭教師」を運営している会社になります。

2004年に開始したバスケットボールの家庭教師事業は、2019年6月時点でコーチ70名以上、会員数1300名以上。
指導実績多数・各地講習会なども担当しており、「はじめてのミニバスケットボール」「バスケットボール IQ練習本」「バスケットボール判断力を高めるトレーニングブック」「バスケットボールの教科書1~4」など多くの書籍・DVDも監修しています。

【ERUTLUC代表鈴木良和コーチ JBA活動歴】
2016年U12ナショナルキャンプヘッドコーチ
2016年U13ナショナルキャンプヘッドコーチ
2016年男子日本代表サポートコーチ
2017年U12ナショナルキャンプヘッドコーチ
2017年U13ナショナルキャンプヘッドコーチ
2017年男子日本代表サポートコーチ
2018年U22日本代表スプリングキャンプアドバイザリーコーチ
2018年U12ナショナルキャンプヘッドコーチ
2018年U13ナショナルキャンプヘッドコーチ
2018年~2021年男子日本代表サポートコーチ
2021年~女子日本代表アシスタントコーチ

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